熊本地方裁判所 昭和51年(行ウ)1号 判決 1983年3月18日
原告 田川豊平
被告 八代平野北部土地改良区
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告が原告に対して昭和五三年一〇月四日付で、別紙目録(一)記載の土地の換地として同目録(二)記載の土地を指定した処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(本案前の申立て)
主文同旨
(本案の申立て)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は別紙目録(一)記載の土地(以下、「従前地」という。)を所有していたものである。
2 被告は、土地改良法に基づく団体営古閑下町圃場整備事業の施行者である。
3 被告は右事業に関して、昭和五〇年一一月二七日付八平北発第六〇五号をもって、原告の右従前地の一時利用地として別紙目録(二)記載の土地を指定する旨の処分をなし、右処分は前同日ころ、原告に通知され、続いて昭和五三年一〇月四日付八平北発第九九七号をもつて、右従前地の換地として同目録(二)記載の土地を指定する旨の処分をなし、右処分はそのころ、原告に通知された。
4 原告は右一時利用地指定処分に対し、昭和五〇年一二月二〇日被告に対して異議申立てをなしたが、被告は昭和五一年一月二〇日右異議申立てを棄却した。
5 しかしながら本件換地処分により指定された換地は、次のとおり原告の従前地に照応するものではなく、また他の者に比しても不公平である。
(一) 土性
原告の従前地のうち、中新地にある土地は土質が良く、高低の点でも高い位置にあつたところ、換地の古閑下町字三郎渕二一七三番の土地は粘土質で土性において著しく劣り、かつ低い位置にある。
(二) 園芸作の能否
右土地はまた低い湿地であるため、雨季に冠水の恐れがあり、園芸作が不可能である。
(三) 宅地回りの換地
更に右三郎渕二一七三番の土地は原告の居住地から一六〇メートルも離れた場所に指定された。従前地は居住地から一六〇メートルも離れた場所に位置するものはなく、また離れた場所にあるものも地積は右土地に比してはるかに狭い。従つて利用条件が著しく悪化したうえ、同一圃場整備地区内のすべての者と比しても不公平である。
すなわち原告の従前地のうち五区画計一万二二一一平方メートルが原告の宅地回りにあつたのに、換地のうち宅地回りに指定されたのは四筆で計一万〇八七四平方メートルに過ぎない。
しかるに、原告以外の者はすべて宅地回りの従前地については宅地回りに換地が指定されているし、特に古閑下地区内の米村尚、田川千幸、杉山豊秋、米村正治、石田正雄、永吉康規、元杉嘉次郎、田口正之、永吉康男並びに藤井一馬は、居住地に隣接する換地が従前地よりも広くなつており、この点でも宅地回りの土地が換地後従前地より狭くなつた原告は不公平な処分を受けたものである。
6 よつて、原告は被告に対し、本件換地処分の取消しを求める。
二 被告の答弁及び主張
(本案前の主張)
被告が原告に対してなした昭和五三年一〇月四日付換地処分通知書が原告に到達したのは同年一一月一三日であるところ、行政事件訴訟法一四条一項によれば、右同日から三か月以内に換地処分取消しの訴えを提起しなければならないし、同条三項によれば処分の日から一年を経過したときは訴えを提起できない。しかるに原告は右いずれの期間も徒過した昭和五四年一一月二一日に従前の一時利用地指定処分取消請求から本件の換地処分取消請求に訴えを変更しており、本訴は出訴期間を経過した違法な訴えであつて却下されるべきである。
(請求原因に対する認否)
1 請求原因1ないし4の事実はいずれも認める。
2 同5は争う。
(一) 同項(一)の事実は否認する。
(二) 同項(二)の事実は否認する。
(三) 同項(三)の事実のうち、原告主張の土地が原告の居住地から約一六〇メートル離れていることは認め、他の者と比して不公平であるとの点は争う。
原告の居住地の周囲には計一万〇八七四平方メートルが四角形の一団地として換地されており、この付近の原告の従前地の地積が計六二三八平方メートルであつたことと対比すれば、原告の宅地回りには比較的多く換地しているものであり、他の者より不利なことはない。
三 被告の本案前の主張に対する認否及び反論
1 本件換地処分の通知が昭和五三年一一月一三日原告に到達したことは認める。
2 一時利用地指定処分は、土地改良事業に係る換地計画に基づき、換地処分を行なうにつき必要がある場合(土地改良法五三条の五第一項)についてなされるもので、土地改良区が右規定により一時利用地を指定する場合には、換地計画において定められた事項または同法で規定する換地計画において定める事項の基準を考慮してしなければならない(同条二項)。従つて、右処分は換地処分の前提としてなされ、また前記目的からみて明らかなように、一時利用地の位置、範囲が将来そのまま換地となる予定でなされるものであり、現に本件でも一時利用地がそのまま換地となつている。
3 一時利用地指定処分と換地処分とが目的達成への一連の手続であるとしても、各処分が出訴の対象となり、出訴期間遵守の有無は当該処分ごとに判定されるべきが本則である。
しかしながら、訴えの交換的変更における新訴または予備的請求の訴えの請求原因事実たる実体的違法が、すでに旧訴において処分の違法事由の一として主張されている場合には、これらの訴えが出訴期間経過後に提出されたものであつても、その違法を攻撃する部分に限り、出訴期間遵守の点については欠けるところがないと解するのが相当である。従つて、前項のような換地処分との関係における本件一時利用地指定処分の性質よりみるとき、当然本件訴えの変更における旧訴、新訴はいずれも同一の実体的違法を主張するものとなるから、旧訴が適法に提起されたものである以上、新訴は出訴期間経過後の提起に係るものであつても適法たるを失わないものである。
第三証拠<省略>
理由
一 まず本案前の主張について判断するに、この問題は一時利用地指定処分の性質や、換地処分との関係をどう見るかに係つているものである。
さて、土地改良法(以下単に法ともいう。)五三条の五所定の一時利用地の指定処分の性質につき、それは土地改良区において土地改良事業の工事実施上の必要から、従前の土地の利用を停止する代わりに別の土地を定めて、これについて右工事を完了し、換地計画を決定し、右計画に都道府県知事の認可がなされ、その旨の公告のあるまでを存続期間とする一時的な使用収益を許容するものにすぎない。
そしてその土地指定の基準は換地決定の基準と全く同一であり(法五三条の五第二項、五三条一項二号)、またその利用関係は従前の土地のそれと同視できるものである(法五三条の五第四項)としても、一時利用地指定処分は換地処分に先行して必ずなされなければならないものではなく、右指定地を将来そのまま換地とするために行なう処分と認めるべき法律上の根拠は存在しない(最高裁判所昭和四四年一月二八日第三小法廷判決、民集二三巻一号三二頁参照)。
また土地改良法による換地は、換地計画に対し都道府県知事の認可があつてその旨の公告がなされた日の翌日からそれが従前の土地とみなされる効果を生ずる。従つて一時利用地の指定があつても、換地処分の発効までは従前の土地につき、その所有者の所有権は存続するわけである。
更に一時利用地が指定されている場合においても、換地処分は従前の土地についてなされるものであつて、一時利用地についてなされるものではない。このことは「換地計画においては、従前の土地に照応する換地を定めなければならない」(法五三条一項二号)とされていることからいつても、上述のように一時利用地の指定があつても所有権はなお従前の土地に存続することからいつても疑いない。
以上検討したところによれば、換地処分は一時利用地指定処分を当然の前提としてなされるものではなく、従つて一時利用地指定処分の違法事由が当然に換地処分に承継されるという関係にはないのであるから、一時利用地指定処分の取消訴訟が出訴期間内にされたからといつて、出訴期間徒過後に訴えの変更の方法により提起された換地処分取消しの訴えが、実質的にみて一時利用地指定処分の取消しの訴え当時に提起されていたものとみることはできないというべきである。
これを本件についてみるに、原告が本訴において取消しを求める昭和五三年一〇月四日付換地処分の通知が同年一一月一三日原告に到達したことは当事者間に争いがないところ、原告は昭和五〇年一一月二七日付でなされたその主張の一時利用地指定処分の取消しを求める訴えを同五一年二月一九日に提起したが、右従前の訴えから本件換地処分の取消しを求める訴えへの交換的変更が昭和五四年一一月二一日の本件口頭弁論期日になされたことは記録上明らかであり、しかるときは、本件換地処分取消しの訴えは行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間を徒過して提起されたものというべく、不適法として却下を免がれない。
二 以上のとおりであるから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の被告に対する本件訴えは却下し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 柴田和夫 最上侃二 山内功)
物件目録(一)(二)<省略>